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  • 福井 健人

論文紹介:こころの健康についての疫学調査に関する研究


本ページではこころの健康についての疫学調査に関する研究(川上憲人)について紹介いたします。


上記の論文は平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業) における総合研究結果報告である。

この論文は日本では数少ない不安障害・不安症の生涯罹患率及び12ヶ月間有病率を分析した結果が示されている。


何らかの精神障害(DSM-IV診断による気分・不安・物質関連障害)

生涯罹患率25%

12ヶ月間有病率10%


大うつ病性障害

生涯罹患率6%

12ヶ月間有病率2%


大うつ病における日本の年間損出4000万日(約4000億円相当)

全気分、不安、物質関連障害では年間のべ1.1億日(約1.1兆円相当)の社会経済的損失(20歳以上人口1億人、1日あたりの給与単価1万円で試算)

※自殺などの死亡による損失、治療費、家族の介護負担、休業以外の生産性の低下は含まれていない。


ひきこもり経験者は1.1%であり、現在ひきこもりの状態にある世帯は0.56%であり、約26万世帯がひきこもり者を抱えている


WMH共同研究による国際比較では、気分、不安、物質使用性障害の頻度が欧米で高く、わが国で低いこと、精神障害による受診・相談の割合がわが国で低いことが判明した。

以上から、心の健康づくりの環境整備について以下の対策を提言した。(1)地域住民における気分、不安、薬物使用障害の頻度は高く、社会機能障害も多いが、多くは治療を受けていない。これらの疾患の早期受診を促進すべきである。(2)明らかになった受診の遅れに関する要因に対して広報・啓発・教育が実施されるべきである。(3)精神疾患の合併例は、機能障害が大きく、自殺傾向も強い。重症例と軽症例への異なる保健・医療サービスが必要である可能性がある。(4)地域の心の健康問題の連鎖(暴力、軽症の精神疾患、身体疾患)が確認され、心の健康問題の第一次予防のためには、ライフサイクルを通じた多様な対策が必要である。



論文本文要約

本研究ではWHOの主導する国際的な精神・行動障害に関する疫学研究プロジェクトである世界精神保健(World Mental Health, WMH)調査に参画し,こころの健康についての疫学調査(WMH日本調査、WMHJ)を実施した。国内の11地域ごとに無作為に抽出した地域住民合計4,134人(平均回収率55.1%)の代表サンプルについて、こころの健康やその関連要因・危険因子等についての構造化面接を実施し、精神障害(気分、不安、物質関連障害)の有病率,社会生活への影響等を明らかにした。


1.調査時点までの生涯に地域住民の4人に1人が,また過去12カ月間に10人に1人が,何らかの精神障害(DSM-IV診断による気分・不安・物質関連障害)を経験していた。特に頻度の高い大うつ病性障害は、生涯に6%過去12ヶ月間に2%の者が経験していた。精神障害では慢性の身体疾患よりも大きな生活上の支障や年間の休業日数が生じていた。

2.これまでに本気で自殺を考えた者は9.7%過去12カ月間に本気で自殺を考えた者は1.2%であった。精神障害の合併により自殺傾向のリスクが著しく増加していた。


3.何らかの精神障害を経験していた者のうちこころの健康に関する受診・相談経験があったのは約30%過去12カ月間に何らかの精神障害を経験した者では約17%しか受診・相談しておらず、「満たされていないニーズ」が明確となった。受診行動の阻害要因として、こころの健康問題への知識のなさ、相談先に関する情報不足があげられた。


4.うつ病には、子供時代や家庭内暴力、軽症の精神疾患、身体疾患への罹患が危険因子となっており、地域の心の健康問題の連鎖の存在が確認された。


5.「ひきこもり」を経験したことがある者は1.1%であった。現在「ひきこもり」の状態にある世帯は0.56%であり、約26万世帯が「ひきこもり」者を抱えていると推測された。

6.WMH共同研究による国際比較では、気分、不安、物質使用性障害の頻度が欧米で高く、わが国で低いこと、精神障害による受診・相談の割合がわが国で低いことが判明した。

以上から、心の健康づくりの環境整備について以下の対策を提言した。(1)地域住民における気分、不安、薬物使用障害の頻度は高く、社会機能障害も多いが、多くは治療を受けていない。これらの疾患の早期受診を促進すべきである。(2)明らかになった受診の遅れに関する要因に対して広報・啓発・教育が実施されるべきである。(3)精神疾患の合併例は、機能障害が大きく、自殺傾向も強い。重症例と軽症例への異なる保健・医療サービスが必要である可能性がある。(4)地域の心の健康問題の連鎖(暴力、軽症の精神疾患、身体疾患)が確認され、心の健康問題の第一次予防のためには、ライフサイクルを通じた多様な対策が必要である。

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